日本にはものすごい産科医がいます。愛知県岡崎市に産婦人科「吉村医院」を営む、吉村正先生、産婦人科暦50年の大ベテランです。
吉村先生は、以前は最新の医療機器を使い、徹底管理した医療介入型の出産をしていました。医療が母子の命を救うことに、誇りすら感じていたといいます。
ある日、分娩監視装置のカメラで捉えた陣痛にゆがんだ産婦の顔をモニターで見ていた先生はとつぜん、「俺はここで何をしているんだ」とモニターのスイッチを切り、産婦のもとへと駆けつけました。「大丈夫か、がんばれよ」、以前は言ったことのない言葉で産婦を励まし腰をさすってあげたといいます。(産科医は子宮口が全開になり、いよいよ生まれるとうときに初めて登場するのが一般的です)。吉村先生は、そのときの産婦のうれしそうな顔を見て、女性が本当に喜ぶお産を追求しようと思ったそうです。1億円以上かけて揃えた医療機器はすべて処分し、産婦に寄り添い、見守るお産、女性の産む力を引き出し、いざいうときだけ産科医としての手を差し伸べる、究極の自然分娩へとたどりつきました。
以来、2万件以上の自然なお産をとりあげてきました。
吉村先生は言います、
「お産はいのちがけ。だから尊い。女性は女の力を100%発揮したお産を通して浄化されて、真の母子が誕生するんですよ。このプロセスを味わわないなんて、自然に背くことです」
■女は産む性である
吉村先生の言葉は力強く、2万件以上の自然なお産をとりあげてきたからこその重みと確信があります。
「自然なお産を通して私が気づいたことは、女性はやはり“産む性である”ということです。神聖な存在です。女神です」
「女性が妊娠するということは、その宿っている子は産まれる運命だということです。たとえ死産であっても、流産であっても、それはそういう運命を持った魂なんです。生まれてすぐに死んでしまう奇形がある子でも、その子はその肉体を生きる意味があるんです」
「だから私は中絶手術はしません。出産中に胎児があぶないとわかっても、できれば手を出したくない。その子の運命を信じるんです。生命力のある子はどんなにもうダメかもしれないと思っても、かならず蘇生するんです。いのちってそういうものです」
吉村先生のところで行われるお産の医療介入は、現在、ほとんどゼロだといいます。
「逆子でも、40代後半で初産でも、双子でも、うちはちゃんと自然分娩でつるんと生まれるよ。待つってことをね、今の産科医たちは知らないんだよ。少しでもマニュアルからはずれると不安になって手を出しちゃう。私たち一人一人の顔や姿かたちが違うように、お産のあり方も十人十色。自然の力ってもんは、そんなにまなっちょろいもんじゃないです。生まれようとするいのちをもっと信じてやらにゃいかんですな」
■安産のための心得
吉村医院には江戸時代の民家を移築した茅葺屋根の「お産の家」があります。妊婦たちはそこで江戸時代の生活さながらに、蒔割りをしたり、廊下のふき掃除をしたり、釜戸に息を吹きかけて火を起こして玄米を炊いたりします。ここではそれを「古典労働」と呼び、妊婦たちがお産をするときに必要とする、腹筋や足腰の鍛錬に生かしています。
「今の妊婦たちは、バクバク、ゴロゴロ、ビクビクしてダメですな。好きなものをバクバク食べて、身体を大切になんてゴロゴロして、お産が怖い~なんてビクビクしている。安産とはまるで正反対です。玄米と野菜を中心にした、天然塩をしっかりきかせた食事をして、体は動けるだけ動かして1日最低3キロは歩かなきゃいかんですな、お産はいつでも来いとどんと構えていなくちゃいかん。ビクビクしてるから医者に脅かされてすぐ楽なほうがいいとか思うんだ。生命を産むのだから、生命力のあふれる元気な生活をしなくちゃいかん。動いていない身体、難産になる身体は診察しなくても顔をみればすぐわかります。私の目はごまかせんですよ、はっはっは」
食事、運動、心の準備……やれることはすべてやって、あとは自分が望む出産方法で満足のいくお産をする、それが私たちが幸せを感じられるお産につながるのですね。
妊娠中、夜中などに万が一のことがあれば、地域の周産期母子医療センターを知っておくといいでしょう。妊娠満22週目以上、生後7日間以内の周産期の母子を、突発的な緊急事態に備えて産科・小児科双方からの一貫した総合的な体制で、24時間サポートしてくれます。
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